運動やスポーツにおいて、精神面を意味するメンタルと対比して使われるワードであり、身体面を表すフィジカル。卓越した身体と身体能力を持ったトップクラスのスポーツ選手のことを、俗に「フィジカルおばけ」「フィジカルモンスター」などと表現することもあるほどです。それほどまでに、スポーツにおいてはフィジカルが大切であると認識されていると言えることの証左ではないでしょうか。しかしながら、皆さんはそのフィジカルをいつから、どのようにして鍛えていけばいいのか、疑問に思ったことはないでしょうか。
そこで今回は、小学生がフィジカルをトレーニングしようと思ったときに、どのように筋肉トレーニングをすればいいのかについて解説していきたいと思います。
小学生は運動能力が発達しやすい特別な時期
小学生の年代だと、小学1年生の6歳から小学6年生の12歳まで体格が大きく変化する時期ですよね。また小学生の間というのは、運動能力が発達しやすい、人生の中でも特別な時期でもあるのです。
皆さんは、スキャモンの発育曲線というものを耳にしたことはありますか。スキャモンの発育曲線がいったいどのようなものかというと、人間が生まれてから20歳になるまでの、筋肉や骨、神経、臓器などの発達具合を20歳時点を100%として年齢別にどの程度になるかを表した曲線のことです。そして、運動神経を含む神経機能は、8歳までに80%、12歳までにほぼ100%発達するといわれています。そして4歳から8歳までの時期をプレゴールデンエイジ期、9歳から12歳ごろまでの時期をゴールデンエイジ期と呼びます。これらの時期というのは、運動能力が非常に発達しやすい時期、まさに黄金期なのです。小学生の時期の前半がプレゴールデンエイジ期、後半がゴールデンエイジ期になる小学生の時期というのは、運動やスポーツに関してとても大切な時期と考えられるでしょう。
でも運動神経ってゴールデンエイジ期に発達するものなの?
「プレゴールデンエイジ期やゴールデンエイジ期には神経機能が著しく発達するので、運動神経も良くなる」といった話を聞いても、にわかには信じがたいですよね。運動神経というと、「あの人は運動神経が良くてうらやましい」「私は運動神経が悪いからなぁ」といったような使われ方をするので、どうしても先天的な要素というイメージが先行しがちではないでしょうか。しかし幸運なことに、それは誤った認識です。日本女子体育大学の学長である深代千之氏は著書「子どもの学力と運『脳』神経を伸ばす魔法のドリル」の中で、生まれつき運動神経が悪い人はいないと述べています。さらに深代氏は運動神経についてこのように説明しています。(著書をもとに筆者編集。)
私たちの神経系は、脳と脊髄からなる中枢神経系と、中枢神経系から発せられる信号を末端まで送る末梢神経系の2つに分類されており、運動神経はこの末梢神経系の一部に必ず存在するものになります。仮にもし運動神経がなかったら、手を思い通りに動かして文字を書くことも、箸でご飯を食べることもできないでしょう。また、運動神経の有無に個人差があるものではなく、誰にでも同じように備わっているものです。ここまで聞くと、運動に苦手意識のある人たちは、脳からの指令を伝達するスピードが遅いのではないかと考えるかもしれません。しかし、そのようなことはありません。脳から筋肉に情報を伝える伝導速度にも個人差はほぼないでしょう。では運動神経の良い子どもと悪い子どもの違いがどこにあるかというと、スポーツや運動に必要な動きのパターンを多く経験しているか否かになります。つまり、脳の神経回路をたくさん形成したかどうかという後天的な環境の違いによって、いわゆる運動神経の良し悪しは決まっていくのです。
子どもにとって筋トレは必要なものなの?
では、人間の神経機能が80%ほど確立される8歳までのプレゴールデンエイジ期やほぼ100%確立される12歳までのゴールデンエイジ期では、どのような筋肉トレーニングが必要なのでしょうか。
実は小学生の段階ではフィジカルトレーニングは必要ないという意見もあります。プロのアスリートをはじめ、幅広い世代に対してトレーニング・コンディショニングサポートを行う株式会社アークアスリートの代表取締役である樋口彰美氏は、プレゴールデンエイジ期、ゴールデンエイジ期、ポストゴールデンエイジ期(12歳から14歳まで)において、基本的には筋力トレーニングはあまり必要ではないといって差し支えないと述べています。その理由として樋口氏は、これらのゴールデンエイジ期には骨格系の成長の方にエネルギーが使われるため、いざ筋肉を鍛えようとしても効果が出にくいからだとしています。加えて、樋口氏によると、骨格系の成長を一通り終えた後にフィジカルトレーニングを開始するのがオススメだということです。
子どもの時期にトレーニングするのがオススメのポイント3選
では子どもの時期には、筋肉トレーニングの代わりにどのようなトレーニングをするのが良いのでしょうか。小学生でもトレーニングの効果が出やすいポイントは以下の3つが代表的ではないでしょうか。
- 柔軟性
- 体幹
- アジリティ
ではひとつひとつ見ていきたいと思います。
柔軟性
柔軟性というのは、大まかに説明すると骨と骨のつなぎ目である関節の可動域がどのくらいかということになります。柔軟性は運動やスポーツにおいてケガをしにくくなり、高いパフォーマンスを発揮するために大切な要素になります。柔軟性が高いということはすなわち、筋肉や腱(けん)が伸びやすいこと、筋肉がダイナミックに関節を動かすことができるということを意味します。腱というのは、筋肉と骨をつないでいる部分で、アキレス腱などが有名ですね。つまり柔軟性が高ければ、関節に無理のない動きをさせることができるということであり、運動中にケガをしにくくなるということになります。だから、柔軟性は大切なのです。
体幹
体幹とは、その言葉通り身体の幹の部分のことであり、具体的には首から上と腕・足を除いた部分で、人間の体のうち、胸、背中、腰回り、腹筋、お尻などの部分を指します。実は体幹をトレーニングすることで、普段の姿勢が良くなる、疲れが溜まりにくくなる、上半身と下半身のバランスが悪いことや身体の柔軟性が欠けている問題を解決してケガをしにくい身体をつくることができる、スポーツにおいてチカラを発揮しやすくなるなどのメリットを得ることができます。そしてそれは嬉しいことに、大人のみならず子どもであっても同じことなのです。
アジリティ
アジリティというと多くの人が聞き慣れない言葉かもしれません。アジリティ(Agility)とは、敏捷(びんしょう)性という意味になります。アジリティは、ビジネスやITの用語としても使われますが、スポーツにおいては、動作の素早さに関する能力のことを指します。アジリティは筋肉とは違って、子どもの頃からでも鍛えることができます。むしろ、神経機能が著しく発達するプレゴールデンエイジ期やゴールデンエイジ期にアジリティも一緒に鍛えることで、身体の使い方が上手くなることでしょう。
まとめ
子どもの時期は、筋肉よりも柔軟性や体幹、アジリティを鍛えることを意識しましょう。
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