皆さん、運動神経についてどのようなものだと認識していますか。運動神経というと、しばしば「あの人は運動神経が良くてうらやましい」「私は運動神経が悪いからなぁ」などというふうに使われますよね。それはまるで、運動神経が遺伝的要素や天賦の才のようないかにも先天的なものであると考えているかのように感じられます。
しかし、幸運なことに、それは誤った認識です。日本女子体育大学の学長である深代千之氏は著書「子どもの学力と運『脳』神経を伸ばす魔法のドリル」の中で、生まれつき運動神経が悪い人はいないと述べています。これは多くの人にとってとても朗報ではないでしょうか。それは、運動神経は後天的に鍛えることができるものだからです。ただ、運動神経を鍛えるには、小学生の年代をどのように過ごすかがとても大切です。小学生の年代は運動能力が著しく向上するゴールデンエイジ期と呼ばれる年代になります。この記事では、運動神経って本当に後転的な要素なのか、ゴールデンエイジ期とはなにか、そして運動が苦手な子どもたちがゴールデンエイジ期をどのように過ごせばいいのかについて解説していきたいと思います。
運動神経って本当に後から鍛えられるものなの?
運動神経って本当に後転的要素で後から鍛えられるのでしょうか。前段にて紹介した日本女子体育大学の深代氏は同著において、次のような趣旨の内容を述べています。(著書をもとに筆者編集。)
私たちの神経系は、脳と脊髄からなる中枢神経系と、中枢神経系から発せられる信号を末端まで送る末梢神経系の2つ分かれています。運動神経はこの末梢神経系の一部に必ず存在するものです。仮にもし運動神経がなかったら、手を思い通りに動かして文字を書くことも、箸でご飯を食べることもできないでしょう。また、運動神経の有無に個人差はなく、誰にでも同じように備わっているものです。ここまで聞くと、運動に苦手意識のある人たちは、脳からの指令を伝達するスピードが遅いのではないかと考えるかもしれませんが、実際はそうではありません。脳から筋肉に情報を伝える伝導速度にも個人差はほぼないと考えて差し支えないでしょう。運動神経の良い子どもと悪い子どもの違いとは、スポーツや運動に必要な、動きのパターンを多く経験しているか否かです。つまり、脳の神経回路をたくさん形成したかどうかという後天的な環境の違いによって、いわば「運動神経の良し悪し」は決まっていくのです。
つまり、脳の神経回路をたくさん形成していれば、自然と運動能力が向上する(運動神経が良くなる)ということになるわけですが、その神経回路を多く形成するのにも適切な時期があります。それが前述したゴールデンエイジ期です。
運動におけるゴールデンエイジ期とは
では、このゴールデンエイジ期とはいったいなんでしょうか。まずはゴールデンエイジ期の前に、スキャモンの発育曲線というものから説明していきたいと思います。スキャモンの発育曲線とは、人間が生まれてから20歳になるまでの、筋肉や骨、神経、臓器などの発達具合を20歳時点を100%としてどの程度になるかを表したものがあります。このスキャモンの発育曲線では、神経機能は8歳までに80%、12歳までにほぼ100%発達するといわれています。つまり、前段で運動神経は好転的に鍛えることができると述べましたが、いくらそうだといっても小学生までで大きく決まってしまうものなのです。いわば運動能力を高められる黄金期があるわけですね。そして神経機能が著しく発達する時期である、4歳から8歳ごろまでの期間をプレゴールデンエイジ期、そして9歳から12歳ごろまでの期間をゴールデンエイジ期と呼んでいるのです。この期間の間にしっかりと運動をして脳の神経回路を多く形成しないと、中学生以降では運動神経が劇的に改善する可能性は低くなってしまうでしょう。ぜひ限られたゴールデンエイジを無駄にしないよう、しっかりと運動するようにしましょう。
運動の苦手意識を解消するにはどうしたらいい?
では、お子さんにプレゴールデンエイジ期あるいはゴールデンエイジ期にしっかりと運動させて運動能力を鍛えてあげたいと思ったときには、どうしたらいいのでしょうか。運動能力の高い(運動神経が良い)子どもの特徴から解決策を探っていければとお思います。
運動神経の良い子どもはこれから述べる7つの能力に優れていると考えられるのではないかと思います。
- まず最初は、運動全般の動きの基礎となるバランス能力です。
- 2つ目の能力は、音楽などの刺激にああせて自分の体を動かす能力です。
- 次に、合図などに反応して瞬時に素早く体を動かすことができる力です。
- そして、動いている物体と自分との位置関係を正確に把握するといういわば空間把握能力です。
- 5つ目の能力は、自分との使用している道具の距離感を正確に把握できる能力です。
- それに加えて、臨機応変に素早く動きを切り替える能力です。
- 最後に、複数の動きを無駄なく組み合わせられるという能力です。
これらの能力をしっかり鍛えるためにプレゴールデンエイジ期やゴールデンエイジ期に運動を心がけて、健全な神経回路を形成することで、運動神経を今よりも高めることができるでしょう。
スポーツ教室に通って運動神経を鍛えよう!
しかし、上記で挙げたような能力を、運動に対して苦手意識を持っている子どもたちが普段の生活の中で鍛えることは難しいでしょう。中にはまず体を動かすことが好きではないというケースもあるのではないでしょうか。ではどうすれば前段の能力を高め、運動神経を向上させることができるのでしょうか。
一つのアイディアとして、習い事としてスポーツ教室に通ってみるのはいかがでしょうか。どこかのスポーツ教室に通うことで、個人のモチベーションの波に左右されにくくなります。出不精で体を動かすのが好きではないという子どもの場合も安心です。またスポーツ教室の中には、運動への苦手意識を克服することを目的にしたカリキュラムを行っているところも多数あります。中には夏休みなどの長期休暇だけのコースなどを用意しているところもあります。そのような運動の苦手意識を克服することを目的したスポーツ教室の場合だと、周りに気にせずに取り組むことができます。周りの目が気になってなかなか踏み出せないという心理的ハードルもあるかと思いますが、運動の苦手意識を克服するようなスポーツ教室では、似たような目的の子どもたちが集まっているため、それほど周りの目も気にならないでしょう。また、そのようなスポーツ教室では、小学校の体育の授業でよくあるような競技種目をカリキュラムに取り入れていることが多いでしょう。
まとめ
運動神経が先天的な要素だけではなく、後天的要素であり、4歳~8歳のプレゴールデンエイジ期や9歳~12歳のゴールデンエイジ期では神経機能が著しく発達するというのは、この記事で見てきた通りです。プレゴールデンエイジ期やゴールデンエイジ期にかかる小学生であれば、現時点では運動に対して苦手意識があったり、体を動かすのが好きじゃないという場合でも、充分にそれを克服することができるでしょう。子ども時代にしっかりと運動することは、生涯にわたる健康の礎となるので、しっかり運動するようにしましょう。
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